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月の謎


 月の謎

 人工天体説

 月と牡牛と豊穣

 コラム 月の魔力


月の謎

月には様々な謎がある。

mystery 1  月の大きさ

一般に恒星と惑星、惑星と衛星の大きさの比率は非常に小さい。
太陽系の最大の衛星であるガニメデの質量は木星の一万三千分の一、二番目のタイタンは土星の四千分の一である。
母天体の周りを公転する子天体の質量は数千分の一以下というのが普通なのである。
しかし、月の質量は地球の八一分の一と、大きすぎる。
どうみても異常なのである。

mystery 2  月の誕生

月の誕生に関しては三つの有名な説があった。

  1. 親子説…地球の一部が分裂して月になったというもの。
  2. 兄弟説…月も地球も同じ時期に同じ場所で原始塵雲が凝縮してできたというもの。
    地球の年齢よりも遥かに古い石が月面で採集されたことと、地球と月の構成物質に大きな違いがあることから、@やAの仮説は成立しない。
  3. 他人説…別の宇宙空間から飛来した遊星が地球の引力に捕らえられたというもの。
    しかし、これは偶然すぎ、確立は0に近い。
    ロシュの限界を超えて地球に近づきすぎれば破壊されるし、遠すぎれば地球の引力に取り込まれる可能性はない。
    しかも奇跡的に捕獲できたとしても、様々な疑問がある。
    1. 直径が四分の一もある大きな天体を果たして捕獲できるか。
    2. 月が地球の衛星軌道上に乗るには、それまで飛んできたスピードが急激に落ちて殆ど停止するくらいでなければならないが、物理的におこりえない。
    3. 自然に地球の引力に捕らえられたのなら、楕円軌道をとるはずであるのに、月の軌道はほぼ真円に近い。

    以上よりBの説も現在否定的である。

1984年に唱えられた巨大衝突説という仮説が、現在のところ最も支持されている。
それは、火星よりも多少大きな(地球の質量の0.14倍)天体が、地球の中心から外れた所に衝突し、粉砕された天体と地球の破片が軌道上を周回しているうちに凝縮したといものである。
しかし、土星のリングや小惑星帯のように、帯状のまま周回しつづけるほうが可能性が高いのではないかとも言われ、月の誕生についての完全な仮説はまだないのである。


mystery 3 月は裏を見せない

なぜ月は裏側を見せないのだろうか?
それは月の公転周期が月の自転周期と一致しているからである。
これは月だけの現象ではなく、木星の四大衛星(カリスト、ガニメデ、エウロパ、イオ)と土星のタイタンでも観察され、「子供(巨大衛星)はつねに母親(母惑星)の方を見つづけている」のである。
この現象は「潮汐力」によって起こると説明されている。
引力は距離の二乗に反比例して小さくなる。
つまり月の表側の引力が裏側の引力よりも大きく、月を細長く引き伸ばそうとする力、つまり潮汐力として作用する。
誕生直後の月は今よりもずっと地球の近くを回っており、自転速度も非常に速かったと考えられている。
しかし、月に働く潮汐力のために月の内部で物質がかき回され、激しい摩擦力が生じた。
この摩擦力がブレーキとなって月の自転が遅くなり、ついに公転周期と一致したと考えられている。

mystery 4 距離

地球から見ると太陽と月は同じ大きさに見える。
これは、月から地球までの距離が太陽から地球までの距離の四百分の一の大きさで、月の直径も太陽の直径の四百分の一だからである。
皆既日食も太陽と月がぴったり重なるから起こるのである。
あまりにもできすぎた偶然の一致を説明する天文学的理由はない。
月―地球間の距離を測定するレーザー測距によると、月は地球から毎年3cmずつ離れている。
この原因は潮汐力であると考えられてる。
潮汐力によって盛り上がった海水と地球との間に摩擦が生じ、盛り上がった海水は東側に引きずられ、月に働く引力も常に東側が強く、月を前にひっぱっているためであるという。
月は地球の引力が増大した分、運動エネルギーが増し、地球から遠ざかることになる。
また地球の側でも摩擦が自転にブレーキをかける。
百年間に37秒、自転測度が遅くなるという。
つまり、時間を遡れば、月は今より地球に近い所をものすごいスピードで公転し、地球の自転測度も速かったと考えられる。
オウム貝の隔壁間にある気房の殻の成長線の数が月齢に対応しているという研究者がいる。
成長線の数は時代を遡るにつれて減少し、古生代オルドビス紀末(四億二千年前)には9本であった。
つまりこの頃は月齢は9日、地球と月の距離は現在の43%、一日の長さは21時間というのである。

mystery 5  クレーター

クレーターは、隕石の衝突痕であると言われている。
しかし、あまりにも浅すぎるという疑問がある。
通常、直径十メートル以上の隕石が衝突すれば、直径の4.5倍の深さの穴をあけると考えられるが、月面のクレーターは一様に浅い。
直径80kmほどのクレーターで、深さ3kmたらずなのである。
また、クレーターの底面が月自体の球面の曲率に従って膨らんでいるという謎もある。
これは一般的には、衝突する天体の運動エネルギーで説明されている。
月に衝突する隕石などは秒速20〜60kmという超高速で飛んでいるため、衝突に際して大爆発が生じ、岩石や土砂を高空まで噴出する。
さらに、運動エネルギーは衝撃波となって地中の岩石を押しつぶし、その直後に岩石層が反動で上方に跳ね返って多くの土砂が広範囲に飛び散る。
そのためにクレーターが浅く、底面が膨らんでいるというのである。

mystery 6  海

一方、月の海は、玄武岩質の溶岩が地中から溢れ出し、月面の低地に溜まったものと考えられている。
玄武岩は鉄やマグネシウムの含有量が多く全体に黒っぽいため、地球から見たときに餅をつくウサギなどの黒い模様に見えるのである。
そして、月を惑星軌道上から観察した結果、海の下に何か高密度の物体が埋まり、軌道上からそれがキャッチできるほどの重力異常を生み出していることがわかった。
マス・コントレーション(マスコン)と呼ばれるこれらの重力異常地域は現在十二か所発見されている。
この原因は、海の下に巨大な金属の塊――すなわち、月面に衝突した鉄―ニッケル小惑星――が、そのまま埋まっているためではないかと考えられている。

mystery 7  表と裏の違い

この、クレーターと海の成因からすれば、表も裏も同じような地形になるはずである。
しかし、実際には、月の海は表側に集中し、クレーターは裏側に多い。
そればかりでなく、裏の地殻が表よりも40〜50kmも厚いのである。
表と裏でこのように地形が違うのはなぜか? 一つの仮説として、月がまだドロドロに溶けた天体だったころ、その軌道は今よりもずっと地球の近くにあり、地球の強大な潮汐力によって月の内部は捻じ曲げられていた。
後に月が冷えて固まり始めても、潮汐力が強く働く表側は容易に固まることができず、地殻は薄くなった。
薄い地殻に巨大な隕石が衝突すると破れ、内部からマグマが流出して海を作った。
しかし早くから冷却が進んでいた裏側は、厚い地殻が作られた。
巨大隕石が衝突しても貫通することがなく、クレーターは作られても海は生まれなかった。
という説である。

mystery 8  月震

アポロ12号で、使用済みの月着陸船を故意に月に衝突させた実験では、月面は約一時間も振動しつづけ「鐘のように鳴り響く」と言われた。
しかも、その振動は、小さな振幅から次第に大きくなってピークを迎え、そのピークが長く続いた後徐々に減衰していくという、地球の地震のパターンとは全く違っていたのである。
また、月―地球間の距離は、小さな伸び縮みを繰り返しているが、これも月自体の振動が原因だという。
なぜこのように月の振動が長く続くかということについて、地殻が不均一で地震波が散乱しやすい、振動を吸収する水がない、岩石に歪がないなどの考えが出されている。

mystery 9  月の石

アポロ宇宙船によって地球に持ち帰った月の岩石や土の年代を測定すると、驚くことに46億年前というサンプルが存在することが分かった。
46億年前といえば、太陽系が誕生した時代、すなわち地球の表面はどろどろに溶けていたころに、すでに月では溶岩が冷え固まって岩石ができていたことになる。
これは、月が地球よりも小さいのでたちまち冷却したためなのか、それとも月は地球よりも早く誕生したのだろうか。
また、地球と月の密度を比べてみる。
(単位はg/立方cm)月全体は3.34で、地球全体の5.52の60%しかない。
そして、地球の表面の石の平均密度の2.75に対して、月の表面の石は2.96と、地球より重く、月全体の平均よりもわずかに下回るのみであった。
つまり、月は外側から中心部まで殆ど密度差がなく、中心部に核が存在しないかもしれないのである。

mystery 10  磁場

月の岩石には36ガンマという強い化石磁場が含まれている。
しかし、現在の月の磁場は約5ガンマと、はるかに小さい。
それに、月には高温の核は存在せず、過去においても強力な磁場が存在していたとは考えにくいのである。
もっとも普通に考えられるのはかつて月は地球に接近しており、地球の磁気を帯びたという可能性であるが、地球の磁気を帯びるほど近づけば、ロシュの限界を超えてしまい、地球の潮汐力によって粉々に破壊されてしまうのである。
月の岩石に強い磁場が含まれている原因は未だわかっていない。

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人工天体説

これらの月の謎を、一挙に解決するのが人工天体説だという。
人工天体説は1970年旧ソ連の科学雑誌『スプートニク』に発表されたもので、提唱者はミハイル・ヴァジンとアレクサンドル・シュシェルバコフという天文学者である。
太陽系のどこかの宇宙空間に超高度な文明を持つ惑星があったが、あるとき壊滅の危機に瀕した。
そこで、惑星の住民は小惑星の内部をくり抜いて巨大宇宙船に改造。
長途の宇宙旅行に旅立って地球と遭遇し、その隣に腰を落ち着けた。
月はいわば “宇宙版ノアの方舟 ”なのだ、というのである。

月空洞説を裏付けるデータとしては、先に挙げた月震の長さと密度がある。

では月が空洞の人工天体だとすると、先に挙げた謎は解明できるのだろうか? 地球外生命体が操縦したのならば、地球に比して大きすぎる衛星であること、月がいかに地球の周回軌道に乗ったか、月が地球から遠すぎるといった謎が解決する。
自転と公転の周期の一致も、人類に裏側を観測されたくないという意図によるものだ。
また、太陽系よりも古い宇宙で形成された小惑星を改造したものであれば、月に地球や太陽系よりも古い岩石があるのも当然である。
また、宇宙空間を旅した間に無数の隕石や彗星の衝突があったはずで、年齢が全く異なる岩石が混在するという謎も解決する。

月の磁場の問題も、もともと地球以外の天体の磁場圏にあったか、あるいは磁場圏を通過したと考えれば説明がつく。

さらに、海の成因や、表と裏の地形の違いを、人工天体説は次のように説明する。
「月の外郭は二重構造になっている。
外側の第一外郭は素石殻。
内側の第二外郭は人工的に作られた堅固な金属殻で、海の部分は第一外郭が極めて薄いか、まったくない場所である。
海は自然の形成物ではない。
隕石の衝突によって第一外郭が破損したので、第二外郭(船体)を強化するために、耐熱性金属成分を大量に含む溶岩状物質を人工的に作り、破損箇所に注ぎ込んだ。
その結果できあがったのが海である」

海が表側に多いのは、進行方向であるためにより大きく破損し、修理が必要だったためである。
耐熱性、防錆性にすぐれ、宇宙船の製造に欠かせないレアメタルが、月の海から採取された石に多量に含まれていたことの説明もつく。
また、マスコンが海に集中しているのは、補修工事のための資材と設備が海の下に残されているからだという。

クレーターの謎も解明される。
クレーターが浅すぎるのは、第二外殻に阻まれるためで、クレーターの底面が月自体の球面の曲率に従って膨らんでいるのも、クレーターの底面は露出した第二外郭なのだから当然である。

ヴァシンとシュシェルバコフは、月の内部に「直径約3300kmの別の天体があり、その表面に諸施設が配されている。
この内部球体と外郭の間には約43kmに及ぶ空洞部があり、そこに生命維持用あるいは工業用のガスが蓄えられている」としている。
不可解な月震もこれで説明がつく。

数々の事実を辻褄が合うように説明しようとすると人工天体説に収斂されるというのだが……

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月と牡牛と豊穣

月と豊穣

月が豊穣の源泉であるという考えは、世界各地に見られ、地域によっては農耕起源神話にも表れている。

なぜ、月が豊穣と関係するのだろうか?
月は満ち欠けする点で、死と成長を象徴するとともに、女性の月経のリズムとも合致する。
月は女性原理の象徴、ひいては大地の成長と多産の象徴になった。
このため、月が大地母神と結びつき、豊穣を約束するようになったというのである。

月と牡牛

他方、牡牛と月の関係は、牛が三日月形の角をもつことによって月と重なるため、牛は早くから古代オリエント世界で神聖な動物とみなされていたと考えられている。

月と豊穣と牡牛

牡牛と月と豊穣を約束する地母神とは象徴的な重なりを持つ。
豊饒の女神、例えばフェニキアのアスタルテ、バビロニアの月神シン、古代エジプトのイシス、ギリシア神話でヘラの嫉妬をさけるためにゼウスに牛に変えられたイオなどはすべて月の女神とみなされ、かつ牡牛と密接なかかわりをもっているのである。

月と食物

しかし、必ずしも女性と関係しない神話も多い。
ニューギニア北東部のウォゲオ島民の神話によると、原初月はいつも満月であり、文化英雄たちは夜も満月の光で連続的に働くことができた。
しかし飢饉となり、文化英雄のうちの一人はどうしても家族のための食料がいるので、月を槍を投げて落とした。
月は大きな鳥のようなものだったが、これを食物籠に入れておいた。
英雄の娘と息子が留守番中に食物を籠からとったところ、籠の目から月が外に出て、鳥となって天にもどってしまった。
以来、月は仕返しのために満ちたり欠けたりして、一部の時間しか光を放たないようになったという。

文化英雄とは、人間社会にさまざまの文化要素や社会的諸制度をもたらした存在をいう。
この神話で月を捕まえることによって食物を得ることができ、また月を入れておいたのが食物籠でありることで、月と食物との密接な関係がわかる。

月と食物との関連は日本神話にも見ることができる。
月読命(つくよみのみこと)は農耕、漁猟の暦をつかさどるため月齢をかぞえる神である。
「読む」とは「数える」ことである。
朔日の月は見ることはできない。
人は三日月を見て逆算し、二日前が新月であったことを知る。
月読命は海原を治めるとして知られているが、また夜の食国(おすくに)を治めるともいい、食物との関係がある。
『紀』には、保食神(うけもちのかみ)を殺害してアマテラスを怒らせ、日月が昼と夜に離れ住む因を作った話が載る。
保食神の「ウケ」は食物、「モチ」は本来は「貴(むち)」の意とされる食物神である。
月読命が保食神のもとに行くと、保食神が口から飯、魚、獣を出して供応したので、ツクヨミはその行為を汚いと怒り、剣を抜いて保食神を殺し、天照に報告した。
天照は激怒して月読とは二度と会うまいと言い、それで日と月とは一日一夜を隔てて住むのだとされる。
さらに保食の死体の各部分から、牛馬(頭)、粟(額)、蚕(眉)、稗(目)、稲(腹)、麦・大豆(陰部)ができたという五穀の起源説話を載せる。
これらの産物名と場所名とは朝鮮語で解けると言われる。
食物神の死は,秋の刈入れを表象している。

これらの神話は、月が女性や牡牛と結びつくことなく、直接食物と関係している。

月と牡牛と神

一方、小笠原邦彦氏は『月の謎と大予言』のなかで、天の神々がすばるからやってきたという信仰が世界各地で見られることを指摘し、「最高神は牡牛座方位の宇宙から」、「月として飛来した」ために、「スバル星は最高神の原郷として崇拝され、牛はそのシンボルとして尊重された」と記す。

月と文化英雄

先に挙げたウォゲオ島民の神話をもう一度みてみる。
文化英雄とは、至高神や創造神と異なり、既存の世界を前提として、新しい文化要素の発明・発見を行うものである。
神ではないため、その創造行為は全面的なものでなく、特定の範囲に限定される。
『柩』的に考えれば、文化英雄とは、神によって教えられた知識を人間に広めた仲介者的立場のものということができる。
彼らが満月の光の下で働いていたということは、月の指示で動いていたともとれる。
人間社会にさまざまの文化要素や社会的諸制度をもたらした神々が住んでいた月を崇拝する。
神によってもたらされたものの中に、人間にとって重要な農耕の技術があったため、豊穣や食物と月が結びつく。
さらに、牡牛の一族の支配する地域では、牡牛と月が同じように崇拝の対象になったため、牡牛と月が結びついたと考えることができる。

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 コラム 月の魔力 

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参考文献
『月の謎』学研
『月の謎と大預言』小笠原邦彦 日本文芸社
『世界大百科事典』平凡社