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シュメール語事始
第一回 〜 an 〜
『新・竜の柩』の上巻には、シャルケヌが虹人たちのテントを訪れ、
お互いに名乗りあうシーンがあります。(単行本111ページ)
やがてシャルケヌは地図に視線を戻して、虹人に、おまえたちの町はどこか、とでも言うように目で問い質した。
虹人は首を横に振ってが天を示した。
「アン?」
シャルケヌは天井を見て言った。英語のエアに聞こえる。虹人は笑って認めて、
「もうひとつ楔形文字を思い出したよ」
東たちに言いながら床に十字を描き、それに×を重ねて八光の星にした。
虹人の指の動きを眺めていたシャルケヌに、明らかな驚愕が浮かんだ。
「アン・・・・・・」
シャルケヌはそれを繰り返した。
|
シュメールの文字は、初めは具体的な物の形を表した絵文字でした。
それがやがて単純化されて表意文字となり、
さらに進んで表音文字が作られて、文章を言葉どおりに言い表せるようになりました。
シュメールでは、光輝くものは、神であり、天でもあります。
「八光の星」は、神( dingir )を示しますが、
最高位の神は天のアン神であるので、「アン( an )」とも読み、天を表し、
更に単純に「 an 」という音を表す表音文字にもなりました。
絵文字 | 楔形文字 | 読み | 意味
|
| | an dingir | 天 神
|
= dingir は神の限定詞にも用いられます。
【 次に書く名前は神の名ですよ 】という意味で、この文字を入れるのです。
限定詞の場合「 dingir 」は「 d 」と省略するのが普通で、読むときもこれを読みません。
例えば、愛と戦いの女神イシュタル(シュメールではイナンナ)は次のように表わされます。
|
dinanna = dishtar
|
『新・竜の柩』の上巻、112ページにはエンリルという神も登場します。
「エンリル?」
シャルケヌは急に畏れた顔で虹人を眺めた。エンリルと聞いて、今度は虹人がギョッとした。
「エンリル、と言ったのか?」
虹人はシャルケヌに確認した。
シャルケヌが頷くと虹人は否定した。
「彼はわれわれを神だと思ったようだ」
呆気に取られている皆に、虹人は説明した。
「言葉が通じたなんて思わんでくれ。
エンリルとはシュメールの絶対神なんだ。
天は今も話したアンと呼ばれる神だが、地上のすべてを支配するのはエンリルだ。
彼はオレたちが空から来たと知って、最初はアンの仲間だと思ったみたいだが、こうして地上にいるのでエンリルではないかと勘違いしたのさ。
だがどちらの神もシュメールの守り神で、アッカド人にとってはさほどの存在じゃない。
彼らは確か女神を信仰していたはずだ。
それはまた日本のアマテラス信仰とそっくりでね・・・なんと言ったかな・・・そうだ、イシュタルだ」
虹人が口にしたのと同時に、シャルケヌの頬が軽く痙攣した。 |
エンリルはシュメールの大気・嵐の神で、天の神「 an 」と地の神「 ki 」の子です。
エンリルは、その聖都 Nippur が、シュメール都市同盟の祭儀の中心となるに及んで、神々の王とみなされるようになりました。
エンリルの
| は、「 主 」の意味で、
|
| は「 風、嵐 」の意味です。
|
en
|
| lil2
|
|
神であるので
| を付けて、
|
| と表します。
|
dingir
|
| den-lil2
|
|
シュメール語は、同音異字が多いので、頻度の順に、「 lil2 」の「 2 」のように数字を付記します。
日本語も同音異字が多いという特徴がありますので、シュメール語と日本語の共通点と言えます。
また、シュメール語には、日本語のように音と訓の違いや、当て字もあります。
例えば、Nippur は「 en-lil2 ki 」と書いて、「 nibru 」と読みました。
「 ki 」とは「大地、土地」の意味で、
Nippur には、エンリル en-lil2 の神殿エクル e2-kur がありました。
この神殿は、伝説ではエンリル自身によって建てられ、天と地の「 繋留綱 」の役割を持つとされました。
さて再び『新・竜の柩』上巻。今度は110ページに戻ってみますと・・・
「アズビラヌ・・・ニプル・・・ラルサ」
指揮官はふたたび地図に指を這わせると、上から順にそう言った。
「あんたの町のアズビラヌで、ここが・・・」
「ニプル」
指揮官は虹人の指先を見て告げた。
|
ということは・・・
112ページで、シャルケヌが虹人たちのことを「 エンリル 」かと思って畏れたのも当然ですね。
彼らは「 Nippur 」=「 en-lil2 ki 」=「 エンリルの土地 」に居るのですから。
別にシャルケヌが早とちりだった訳じゃないのですよ〜(笑)
代表的な神を挙げてみましょう。
シュメール語名 | アッカド語名 | 聖都 | 意味
|
an | anu | Uruk | 天空神
|
inanna | ishtar | 豊穣・愛・戦い・金星の女神
|
en-lil2 | en-lil2 | Nippur | 大気神
|
en-ki | ea | Eridu | 水神・知恵の神
|
utu | shamash | Sippar | 太陽神
|
nanna | sin | Ur | 月神
|
nin-hur-sag | | Adab Kesh | 豊穣の女神
|
では今回はここまで。次回は「 ki 」です。
第二回 〜 ki 〜
前回「 Nippur 」は「 en-lil2 ki 」と表記すると書きましたが、
この「 ki 」とは、土地、大地の意味です。
もともとの絵文字は、丸の中に斜線を書いたものでした。
絵文字 | 楔形文字 | 読み | 意味
|
| | ki | 土地 大地 大地の神
|
チグリス・ユーフラテス両河流域がメソポタミア、
メソポタミアは南部のバビロニアと北部のアッシリアに分かれ( 境目は現在のバグダード )、
バビロニアはさらに南部のシュメールと北部のアッカドに分かれます( 境目はニップル )。
↑北
メソポタミア┳アッシリア
┗バビロニア┳アッカド
┗シュメール
↓南
シュメールの人たちは自分の住んでいる場所を「 ki - en - gi 」と呼んでいました。
「 gi 」とは、「 葦 」という意味です。
『古事記』とシュメールとの関係を説いている本では、シュメール=葦原中国と考えているようですが・・・
それはさておき・・・
「 ki 」も「 dingir 」と同じように、限定詞として用いられます。
町の名前を示す「 uru 」と一緒に使い、「 uru 」〜「 ki 」で、「 〜町 」という意味になります。
例:「 uru ardat ki 」=「 アルダット町 」
・・・でも・・・封筒の宛名に「 ki - en - gi uru 盛岡 ki 」などと書いても届かないと思いますよ(笑)
さて、前回の「 an 」と今回の「 ki 」を組み合わせて、「 天と地 」を表すにはどうするでしょう?
答えは、「 an - ki 」・・・そのままです(笑)
接続詞は省略されるのですね。
「 天と地 」=「 天地 」となる日本語と同じ特徴がここにも見られます。
ここで、シュメール語の特徴を見てみましょう。
シュメール語は、セム語族やインド・ヨーロッパ語族とは全く違います。
ウラルアルタイ語族の特徴を多く持っており、メソポタミアでは非常に独特な言葉なのです。
【語順】
主語―目的語―動詞となっており、日本語と同じです。
【膠着語】
シュメール語は膠着語に属します。
膠着語とは、語の順序や語形変化よりも、助詞・助動詞などの付属語によって、文法的な関係を示す言語です。
日本語・朝鮮語やウラルアルタイ語族がこれに属します。
【語尾変化】
名詞・動詞は語尾変化しません。助詞の付加で格変化と似た表現となります。
【性の区別】
男性名詞、女性名詞といった、性の区別がありません。
【主格の人称代名詞】
主格の人称代名詞は必ずしも使用しません。動詞からわかります。
文章は日本語とおなじように、主語で始まろうが、目的語から始まろうが、後に続く助詞(後置詞)によって文意が分かります。
【能格】
日本語などアルタイ語系の特徴である、能格を持ちます。
能格というのは、例えば、「馬は顔が長い」の「馬」に当たります。「長い」のは「顔」であって、主格は「顔」です。
【疑問詞】
疑問詞は必ずしも文頭にありません。
【冠詞】
冠詞がありません。
【生物、無生物】
使い分けます。 例) aba ( 誰 ): ana ( 何 )
【繰り返し】・・・これも日本語と同じです。
1)繰り返しで複数を表します。 例) kur - kur ( 山々 > 国々 ) 、e2 - e2 ( 家々 )
2)繰り返しで強調を表します。 例) gal - gal ( 大きな大きな )
【母音】
母音は、ア、イ、ウ、エの四つです。
【母音調和】
母音調和があり、二つの子音の間や、語尾でよく起きます。
例) - ani - ak > - a - na -
【同音異義語】
前回書きましたように、日本語同様、同音異義語が多いという特徴があります。
例えば ge には26、 du には24以上の文字があり、使い分けます。
【単音節の言葉が多い】
【l と r】
区別があまりできません。 例) gibil > gibir ( 新しい )
【b と m】
交換があります。 例) i - ba - > i - ma -
【m と n】
交換があります。 例) ezem > ezen ( 祭 )
【大文字・小文字】
大文字と小文字の違いがありません。
などなど・・・シュメール人は日本人の遠い親戚ではないか?という説が出てくるのも頷けるほど、日本語と共通する特徴が数多く見受けられます。
では今回はここまで。次回は「 e2 」です。
第三回 〜 e2 〜
第一回で、Nippurには神殿「 e2 - kur 」が存在していると書きました。
また第二回では、言葉を重ねて複数を表す例として、「 e2 - e2 」=「 家々 」を挙げました。
ですから、もうお分かりでしょう?
e2の意味は・・・
「 正確な視点 」 または 「 Egg Eater 」 !
・・・というのは真っ赤な大嘘・・・(笑・・・すみません)
本当は、「 家 」または「 神殿 」という意味です。
「 kur 」は「 山 」という意味ですので、
Nippurにあった、エンリルの神殿 e2 - kur は、「 山の神殿 」という意味になります。
中国では屋根は傾斜していたので、「 家 」や「 宮 」の象形文字も傾斜していますが、
シュメールの家は煉瓦をつんだ四角いものですので、絵文字も当然四角でした。
絵文字 | 楔形文字 | 読み | 意味
|
| | e2 | 家 神殿
|
家がシュメール語で「エ」だと聞けば、誰しも日本語と同じだと感じられることでしょう。
特に東北弁では「家」は「エ」と発音することが多く、「自分の家」=「おらのえ」などとも言いますね。
今回は、シュメール語と日本語の単語について見てみましょう。
以下は『新・竜の柩』の、プアビと東たちの会話です。(上巻 単行本102ページ)
「こいつも逞しい野郎だな。これだけの強行軍だってのに弱音ひとつ吐かねぇ」
東は子供の頭を撫でた。
子供は嬉しそうに頭を上げて、
「クゥ、ニンダ」
と全員を促した。千切ったパンを手にすると、またクゥと言って口に運ぶ。
「クゥって・・・・・・まさか食えって意味じゃ?」
東は、唖然とした顔で虹人に言った。
「どうもそうらしいな」
「らしいって・・・・・・日本語とおなじですよ」
|
「 ku2 」は「 食べる 」、「 ninda 」は「 パン 」という意味です。
さて、短い会話として有名なのが
「 どさ 」( どこへ? )
「 湯さ 」( 湯へ )
ですが、東北にはさらに短い会話があります(笑)
「 け 」 ( =くぇ=食え )
「 く 」 ( =食う )
まさにその「 く 」がシュメール語!
『新・竜の柩』では「 浪速 」は「 ナム・バ 」=「 nam - bar 」であるという説が紹介されています。
「 nam - 」は次に続く単語を抽象名詞化する語で
例えば、「 強くする 」という意味の「 kalang 」が付いて「 nam - kalang 」となると「 力 」という意味になります。
「 bar 」には「 開く 」「 分ける 」「 外へ 」という意味があります。
絵文字はまさに障害物を突き破って進むイメージですね。
絵文字 | 楔形文字 | 読み | 意味
|
| または | bar | 開く、分ける、外へ
|
『新・竜の柩』(下巻 単行本258ページ)では「月」の語源について、虹人が語ります。
「それじゃあ、月の語源について、もっと可能性の高そうなことを教えよう。ィツキ」
虹人は冒頭のイをほとんど発音しないで言った。その言葉にブトーが反応を見せた。
「知っている言葉みたいですね」
東は目敏く見抜いて虹人に囁いた。
「だろうな。発音に自信はなかったけど」
虹人もブトーやイシュタルを見ていた。
「それはなんなのだ?」
鹿角は苛立って促した。
「シュメールの言葉で、月の都のことさ」
鹿角はあんぐりと口を開けた。
「ィツゥとは月。キは都市のことだ。続けるとィツキ。日本人は冒頭の促音をたいてい発音しない。するとツキになる」
|
月は漢字では三日月の形ですが、シュメールでは、山の間から出た満月の形です。
絵文字 | 楔形文字 | 読み | 意味
|
| | iti itu | 月
|
シュメール語の文章は、古くは縦書きで、文字は右向き、漢文同様、右から左へ行を進めていました。
記念碑などでは、そのしきたりが長く続きましたが、
粘土板では早くから反時計方向に90度回転して横書きとし、文字は左から右に書きました。
例えば、上記の「月」は、が反時計方向に90度回転してとなり、さらにとなったものです。
蛇足ですが・・・
メソポタミアでは、月神崇拝に押されて、太陽神は神々の王にはなれませんでした。
シュメール語の太陽神「 dutu 」は、
「 日 」を表すに神を示す限定詞が付いてと書きますが、
シュメール語のには「 白い 」=「 babbar 」という意味もあり、
シュメール人は太陽を「白い」と見ていたことが分かります。
プアビの故郷ラルサで、南波が白い建物に興味を持ちます。(『新・竜の柩』上巻 単行本251ページ)
「神殿なんでしょうが・・・・・・なんだか妙な建物ですね。着飾った監獄みたいだ」
南波はジッグラトよりも真正面の神殿に興味を抱いた。言い得ている。ギリジアやローマの神殿のように、円柱が屋根を支えているのではない。壁に白く塗られた円柱のレリーフが施されていると言えばいいのか・・・・・・いや、違う。柱と柱の空間を壁が埋めているのだ。
|
Larsa には、白い神殿「 e2 - babbar 」 と呼ばれる神殿があり、
これは太陽神 shamash (= utu )を祭っていたものでした。
太陽=白というイメ−ジからのものなのでしょう。
| | 白い神殿
|
e2 - | babbar
|
さて、話を戻しましょう。問題の「牡牛」ですが・・・(上巻 単行本103ページ)
虹人は言いながら、そうかと頷くと、子供の目の前で指文字を描いた。右向きの三角の底辺から二本の線が伸びているものだ。
「グゥド?」
そう口にして虹人が訊ねると、子供はきょとんとしながら、大きく頷いた。
「グゥード」
|
絵文字 | 楔形文字 | 読み | 意味
|
| | gud > gu4 | 牡牛
|
「おまけに日本では牛を『ぎゅう』とも言う。グゥドの発音が少し変化するとギュウ。英語のグッドにしたって、われわれにはグゥとしか聞こえない。日本や中国でシュメールの牡牛がギュウとなっても不思議はない。いや、それよりも、本来は日本や中国だって、グゥと発音したはずだ。
|
シュメールでは、時代が下るにつれて語尾の子音が無くなる傾向にあり、
実際に「 gud 」は「 gu4 」と変化したのです!
では、最後に他によく使われるシュメール語の単語を挙げておきましょう。
もしも皆さんがシュメールに行くことがあった場合に困らないように(爆)
水 | a
|
海 | a - ab - ba
|
男 | lu2
|
女 | mi2 sal
|
父 | ab ab - ba ad
|
母 | ama
|
子 | dumu
|
王 | lugal
|
王子 | dumu - lugal
|
頭 | sag
|
手 | shu
|
足 | gin gub
|
飲む | na
|
ビール | kash
|
麦 | she
|
(アッカド語では「 a - ab - ba 」と綴って「 tiamat 」と読みます)
では今回はここまで。次回は「 dur2 」です。
第四回 〜 dur2 〜
「 dur2 」は「 連合 」「 結び目 」という意味です。
「これはジッグラトのようだな」
鹿角が楔形文字を囲む線を見て言った。なるほど、ただの囲みではない。シュメールやバビロニアに特有の、台形のピラミッドのジッグラトに似ている。
「エ・ドゥル・アン・キ」
若い将校が鹿角に向かって言った。
雰囲気から察して、彼はこのジッグラトのことを説明したように思える。
「エズルアンキ?」
虹人は若い将校の目を見て質した。虹人の指は文字を囲む線を示している。
若い将校は満足そうに頷いた。
<なんだったかな?>
確かに聞き覚えのある言葉だった。だがすぐには浮かんでこない。喉のところまで答えは出かかっている。虹人は苛々と唇を噛んだ。
|
これは、『新・竜の柩』で、シャルケヌに金属板を見せられた時のことです。(上巻 単行本72ページ)
第一回:「 an 」、第二回:「 ki 」、第三回:「 e2 」、第四回:「 dur2 」と
回を重ねてここまで読んで頂いた皆様には、
虹人さんも頭を悩ませた「 e2 - dur2 - an - ki 」の意味が、すぐお分かりだと思います。
・・・・・・(ー'‘ー;) ・・・・・・
final answer?(爆)
・・・・・・(ー'‘ー;) ・・・・・・
ジッグラトというのは、アッカド語です。
アッカド語はセム語族に属し、シュメール語とは全く言語体系が違うのですが、
アッカド人は自らの言語を表記するのに、楔形文字を借用しました。
日本人が漢字を借用したのと同じですね。
そして、シュメール人とアッカド人は長い間共存し、両方の言語を話せる人も多かったと考えられています。
シュメール語ではジッグラトを「 u6 - nir 」または「 u2 - nir 」と記しました。
アッカド語では、
「 ziqqurratu 」と発音どおりに書く場合と、
シュメール語で「 u6 - nir 」または「 u2 - nir 」と記して、アッカド語で読む場合があります。
しかし、一つ一つのジッグラトには、それぞれ固有の名前が付けられており、
アッカドでもシュメール語をそのまま借用していました。
都市の名前 | 神の名前 | ジッグラトの名前 | 意味
|
Nippur | En-lil2 | e2 - dur2 - an - ki | 天と地の結び目の家
|
Babylon | Marduk | e2 - temen - an - ki | 天と地の礎の家
|
Borsippa | | e2 - ur4 - me - imin - an - ki | 天と地の七賢聖の家
|
Ashur | | e2 - kur - ki - shar - ra | 宇宙の山の家
|
「 temen 」は「 台地 」
「 imin 」は「 7 」
「 ki-shar-ra 」= "on the world" の意味です。
第一回で、Nippurの山の神殿「 e2 - kur 」は天と地の繋留綱の役割を持つと書きましたが、
この神殿の近くにあるジッグラトが「 e2 - dur2 - an - ki 」=「 天と地の結び目の家 」です。
時代が下って古バビロニア時代になりますが、
『人間の創造』という神話には、「天地の紐」において神々の血から人間が創造されたと記されています。
この「天地の紐」とは、Nippurの「 dur2 - an - ki 」のことです。
そこで作られた人間とは・・・
シュメール語で人は「 lu 」ですが、文学作品の中では人間のことを「 sag - gig2 」=「 黒い頭 」と表現しています。
シュメール人は、周囲のセム人に比べると、毛髪や顔色が濃かったと思われ、
インダス地方のドラヴィダと近かったのではないかという考えもあります。
シュメール人の顔として、もっとも有名なのが、グデアです。
グデアはラガシュの王で、自らの像を作り様々な神殿に奉献した、ちょっとナルなお方です(笑)
その顔は、丸顔、濃い眉、大きな目、太い鼻梁を示し、
サルゴン、または彼の孫のナラム・シンではないかと言われている像の顔と比べると、その違いが際立ちます。
サルゴン像は、鼻は高く彫が深い美形ですから。(笑)
『竜の柩』下巻(単行本 51ページ)に引用されている『インドラの歌』その二には、
四 神の力にものみな揺らぎ、ダーサのやから(アリアン人の敵、悪魔)陰ひそむ。
|
とあります。
インダス文明後に、インドに進入したアーリヤ人は、敵対した先住民を、「ダーサ」あるいは「ダスユ」と呼びました。
『リグ・ヴェーダ』によると、「ダーサ」は皮膚の色が黒く鼻が低く、奇妙なことばを話し、異なった宗教を信奉し、男根崇拝など奇妙な風習をもっており、プルと呼ばれる町に住んでいたといいます。
このプルをインダス文明の都市、ダーサをその都市の住民とみる史家もいます。
最近の研究成果によって、インダス文字がドラヴィダ系言語であることはほぼ確定しています。
また、インダス文明の担い手もドラヴィダ民族ではないかと推論されています。
ドラヴィダ語は、日本語やシュメール語同様、膠着語として分類されます。
また、大野晋氏や藤原明氏が、ドラヴィダ語族の中のタミル語と日本語との親族性を強く主張しています。
こう考えてくると「シュメールとインダスと日本」の繋がりが見えて来ますでしょう?
この、シュメール人の中で、最も神に近い場所にいるのが、王でした。
・・・う〜む、我ながら、展開が強引だなぁ・・・(苦笑)
『新・竜の柩』(上巻 単行本315ページ)には、二人の王の名前が出てきます。
「敵の総大将の名前は?」
虹人は王とシャルケヌの両方に訊ねた。
「ルガル・ザグギシ」
王は即座に答えた。
「あれが総大将だと」
シャルケヌは不満の声を洩らした。
「それに仕えているのではないのか?」
虹人はシャルケヌと向き合った。
「オレの王はウルザババという。神たちは二人の王を操って競争させているのだ。
|
urzababa は、Kish の王、
lugal - zagesi は、Umma の王ですが、後に Uruk に本拠を移し、Uruk 王となりました。
この「 lugal - zagesi 」の「 lugal 」とは「 王 」という意味です。
「 lu 」には「 人間 」、「 gal 」には「 大きい 」という意味があります。
古代エジプトでは、王はすなわち神、つまり神王( god king )でした。
それに対して、メソポタミアの王は神官王( priest king )であり、
王の神格化は極めて少ないのですが、
サルゴンの孫ナラム・シン na - ra - am - den - zu は、自らを神格化したことでも知られています。
「 na - ra - am - den - zu 」とは「 シン神の最愛の者 」という意味です。
月神シンは、「 den - zu 」と書いて、「 sin 」と読み、
神であることを示す限定詞「 d 」が見られます。
ナラム・シンが神格化すると、「 dna - ra - am - den - zu 」となり、もうひとつ「 d 」が付きます。
そして神であることを示すために、図像の上でも、ある特徴を持ちます。
『竜の柩』ファンにとっては、思わず( ̄ー ̄)ニヤリ となることに、
牛の角の付いた冠を被るのです。
人ではなく、神であることを示す目印は、
文書の上では、限定詞「 d 」を付けることであり、
図像では、牛の角の付いた冠を被っていることだったのでした。
「 lu - gal 」=「 王 」について見てみましょう。
絵文字では、「 lu 」は人間、「 gal 」は冠を表しています。
ですから、「 lu - gal 」の場合は、とならなければいけないはずですが、
実際は、冠を被った人間となり、
語順とは逆に「 gal 」が先に来ています。
同じように、「 gal 」が先に来る例が、「 ushum - gal 」です。
楔形文字 | 読み | 意味
|
| ushum-gal | 龍
|
『新・竜の柩』上巻(単行本 259ページ)には、イシュタルの夫のことが出ています。
「イシュタルは金星の女神で、豊穣をもたらすとともに戦の神でもあった。彼女は地上の王を夫に持ったんだが、その王は自らを天の龍の息子であると宣言している。
|
彼の名は「 dumu - zi 」
またの名を「 ama - ushum - gal - an - na 」と言います。
「 ama 」は「 母 」、「 ushum - gal 」は「 龍 」、「 an - na 」は「 天の 」という意味で
「 母は天の龍 」と訳されます。
余談ですが、
inanna=ishtar には冥界に行くという神話がいくつかあります。
『イナンナの冥界下り』という神話では―――
ある日 inanna は冥界を訪れます。
姉である冥界の女王 eresh - ki - gal によって、inanna は殺されてしまいます。 o(;△;)o エーン
しかし従者が知恵の神エンキに助けを求め、三日後に inanna は復活します。(良かった良かった)
ところが (」゜ロ゜)」 ナント!
inanna が冥界から出て地上で暮らすためには、
誰か、身代わりに冥界に留まる者が必要だったのです。 Σ( ̄ロ ̄lll) ガビーン
身代わりを探しに?、inanna が地上に戻ってみると、夫の dumu - zi が喪に服してません。
「こいつぅぅぅぅぅ!
( ̄ー ̄)o゛プルプル
dumu-zi を身代わりにしちゃって!」
dumu-zi は蛇になって逃げるのですが効果なし。(母親は龍でも、子は蛇らしひ)
で、冥界暮らし決定! でも半年だけ ←inannaの愛情が感じられますな(嘘)
連座?で残り半年は、 dumu - zi の姉 geshti - an - na が dumu - zi を匿った罪(とばっちり?)で冥界暮らしとなったのでした。
めでたし、めでたし(?)
・・・という、 inanna の「気持ちはよ〜く分かるがそこまでやるかぁ? 迷惑かけてるし」物語なのですが、
そのダンナの「 dumu - zi 」という名前――
「 dumu 」は「 子 」、「 zi < zid 」 は「 良い 」で、「 dumu - zi 」とは「 良い子 」!!!(爆)
脱線しすぎましたね。。。(⌒▽⌒;)
「 龍 」=「 ushum - gal 」の「 ushum 」には、「 唯一の 」という意味があり、
「 ushum - gal 」のもう一つの意味は「 独裁者 」!
龍が治める・・・まさに『新・竜の柩』の世界ではありませんか!
ということで、【 シュメール語事始 】、このあたりでお開きと致します。
長々とお付き合いくださりありがとうございました。
最後に・・・
今回参考にした本に、
孫は神格化したのに、「成り上がり者」だから神様になれなかったって、悪口が書かれてたから・・・
これだけ言わせて!
ga2 - e lugal me - en 「私こそ、王である」 <( ̄^ ̄)>
Sarru - kin (自爆)
<I>
top
参考図書:
『シュメール語入門』 飯島紀
『古代メソポタミアの神々』 岡田明子/小林登志子
『四大文明 [メソポタミア]』 松本健/NHKスペシャル「四大文明」プロジェクト編著
『謎の出雲帝国』 吉田大洋
『世界大百科事典』 平凡社