タイトル | 浮世絵鑑賞事典捕捉 |
No | 3898 |
投稿日 | 2016/10/14(Fri) 03:10 |
投稿者 | 高橋 克彦 |
これって、カドカワの方としては「古典名著復刻」というスタンスではなく、あくまでも浮世絵の入門書として売るつもりで企画したんだろうから、逆に言うなら浮世絵の研究が40年の間にさほど進歩を遂げていないということにもなるんだろうね。 私も近頃はすっかりその世界から遠ざかっているとは言うものの、画期的な研究書が出ればもちろん目を通すはずなのに、なんだか作品だけを優先した安易な画集しか思いつかない。 歌麿や北斎に関する新しい解釈も発表されていない。 浮世絵協会の機関誌には結構な労作がときどき見られるけど、あまりにも狭い世界への言及で一般読者にはなにがなにやらという感じ。 もちろん浮世絵は絵画なんだから小難しい解説より絵が優先されるのは当然、と思うし、現在の浮世絵ブームは国芳の奇抜なアイデアとか春画への関心で支えられているわけなので、画集中心となるのも仕方ないことだろう。 しかし、一度は真剣に浮世絵研究者の道を志した私にすれば、やっぱりおかしいとしか言えない。 たとえ自分の本であろうと、四十年も前の記述がそのまま通用するなんてのは、ある意味呆れ返るくらい情けない話です。 研究が進まないのには資料の足りなさがもちろん大きい。 けれどもし自分がまだ研究者であったら、別のアプローチで浮世絵の面白さを伝えることを模索し続けたのではないかと思う。 変な話だけど私はこの本の再刊に若い研究者たちが腹を立てて、奮起してくれることをどこかで願っている。 報われることの少ない研究に全身全霊を傾けている研究者は必ず居るはずだ。
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